イベントレポート
2020.04.07

札幌国際芸術祭2020
2月記者会見全文公開レポート

2020年2月7日(金)に開催した参加アーティスト第1弾発表&コミュニケーションマーク発表記者会見を対談形式でまとめました。


登壇者:
天野 太郎(以下、天野):SIAF2020企画ディレクター[現代アート担当]/統括ディレクター
アグニエシュカ・クビツカ=ジェドシェツカ(以下、アグニエシュカ):SIAF2020企画ディレクター[メディアアート担当]
田村 かのこ(以下、田村):コミュニケーションデザインデレクター

通訳:田村かのこ


【 田村 】
本日はお忙しい中、SIAF(サイアフ)2020記者発表にお越しいただき誠にありがとうございます。

本日は、コミュニケーションデザインディレクターの田村かのこが進行役を務めます。今回の記者発表は堅苦しいものにしたくないということで、トークイベントのような形でお話しします。
また、アグニエシュカからは英語でお話ししますが、私がその通訳も務めつつ、進行もしつつ進めて参りたいと思いますので、よろしくお願いします。
今回の札幌国際芸術祭2020のテーマはすでに発表しています通り、「オブ ルーツ アンド クラウズ:ここで生きようとする」です。

このテーマには、「ルーツ」と「クラウド」と言う2つの言葉が入っています。
ルーツは木の根っこや、その人がどんなところからやってきたのかという自分のルーツという意味があります。
クラウズは空に浮かぶ雲の意味がありますが、最近では、インターネット上のクラウドサーバのように、目に見えない空に広がるテクノロジーのことを表現したりもします。
このような現代の世界において、私たちが生きていこうとするときに、空高く手の届かないようなもの、目に見えないようなもの、土の下、雪の下に埋まっている根っこ、さらには私たちの歴史・ルーツといったものにも想像力を働かせ、思いを馳せながらアートだけを考えるのではなく、私たちが生きているこの世界ここで生きようとするときに社会を考えるような芸術祭にしていきたいと考えています。

開幕は12月ですので、約10カ月後に迫っており、さまざまな準備を進めているところです。本日は、現段階で決定している内容を皆さんにご紹介したいと思います。
それではまず、SIAF2020の参加アーティスト第一弾を発表いたします。お手元の概要資料(p.11)をご覧ください。

Re:Sensterプロジェクト(リ・センスター プロジェクト)
Cod.Act(コッドアクト)
三上 晴子(みかみ せいこ)
ジュリアン・シャリエール
中﨑 透 (なかざき とおる)
持田 敦子(もちだ あつこ)
スザンヌ・トレイスター
キャロリン・リーブル&ニコラス・シュミットプフェーラー
一原 有徳(いちはら ありのり)
神田 日勝(かんだ にっしょう)
後藤 拓朗 (ごとう たくろう)
大槌 秀樹 (おおづち ひでき)
青山 悟(あおやま さとる)
原 良介(はら りょうすけ)
三岸 好太郎(みぎし こうたろう)
プシェミスワフ・ヤシャルスキ
ライナー・プロハスカ
村上 慧(むらかみ さとし)
クラウス・ポビッツァー
以上、19組のアーティスト・アートプロジェクトです。

今回の記者発表ではアーティストの紹介をしつつ、特に押さえていただきたい注目ポイントを3つご用意しています。

一つ目にメディアアーツ都市のメディアアート
二つ目、コレクションとコレクションとSIAFの融合
三つ目、札幌ならでは芸術祭

この三つです。本日はこの三つのポイントを、参加アーティストの紹介を交えながらご説明させていただきます。

 

〈 ポイント1 メディアアーツ都市のメディアアート 〉

「メディアアーツ都市」という言葉ですが、札幌市は2013年にユネスコ創造都市ネットワークに、日本で唯一のメディアアーツ部門の都市として加盟しています。
その加盟をきっかけとしてメディアアーツに特に力を入れてさまざまな取り組みを札幌市として行っていますが、芸術祭でもこのメディアアーツを大きな軸として、メディアアートを積極的に紹介していきます。メディアアートというのは、コンピューターやインターネットといった、現代のテクノロジーを使った作品、もしくはそのテクノロジーが私たちの生活にどういった影響を与えているのかということを扱った作品だとイメージしてください。

SIAF2020では、このメディアアートに特に力を入れるために、アグニエシュカをメディアアート専門の企画ディレクターとしてディレクションします。
これまでも2014年、2017年と2度開催されてきたSIAFでも、メディアアートの作品を紹介してきましたが、SIAF2020では展示作品の半数をメディアアート作品が占める予定です。今回発表しましたアーティスト・アートプロジェクトの中でも非常に特別な、メディアアートのレジェンド的な作品をご紹介できることになりました!実はこの2つの作品は(2019年)7月の会見でもメディアアートの傑作として紹介しましたが、ぜひその2つを札幌で紹介したいと調整協議を重ねた結果、ついに札幌での展示が実現することになったものです。

その一つ目が、幻の動く巨大彫刻《Senster》(センスター)です。
《Senster》はエドワード・イナトビッチというアーティストによって1968年に制作された全長5メートル程の動く彫刻です。制作・展示された直後から40年以上も行方がわからなくなっていた作品です。行方不明になったことや、元々この作品が持つ力がメディアアートの中でも非常に大きな影響力を持っていました。

2014年、衛星写真を調査していた人たちが《Senster》がガラクタのような状態で、オランダの海辺の町に放置されているのを発見しました。
発見されたときは、もちろん機械としては動かない状態で、無くなってしまっているパーツもありました。その後、《Senster》は、ポーランドにあるAGH科学技術大学に移設され、Re:Senster(リ・センスター)というプロジェクトとして、修復が行われることになりました。60年代のコンピューターや機械を使った作品ですので修復はものすごく大変なものでしたが、現代の技術と組み合わせて、ようやく2018年10月に復活を遂げ、昨年2019年にポーランドで初めて一般公開されました。

札幌市民交流プラザで《Senster》をお披露目します。ポーランドで初公開後、これが世界2回目の公開、アジアでは初公開となります。《Senster》は、1970年当時の画期的な、巨大なスーパーコンピューターで制御し、観客の動きや音に反応する作品です。今ではいろいろなところで見かけるような観客とのインタラクティブな作品ですが、そういった技術が当時も組み込まれていました。

単に全部の音に反応するというだけでなく、時には気まぐれに動くような瞬間があり、動きも非常に面白いものがあります。実は、昨年5月に私と天野ディレクターはポーランドで行われたビエンナーレ(WROメディアアートビエンナーレ2019)に参加して、一足先に《Senster》を見てきました。天野さん、初めて見た時の感想はどうでしたか?

 

【 天野 】
まず今皆さんもお聞きになった通り、来歴そのものが数奇な運命ということもあるし、1968年に、今なら普通なんですけど、インタラクティブな動きをすることが出来たと。考えてみたら、1960~70年代、僕が子どもの時なんですけど、鉄腕アトムがあったり、70年の大阪万博でも随分、先進的なテクノロジーが紹介されていたんですね。

《Senster》は人の動きに呼応するような「動く彫刻」と言えますが、正直とても不気味な感じもして、二足とか四足とかで歩いたりはしませんけれど、表情を変えるような、なんとも言えない瞬間があります。おそらく皆さんも見たときにハッとされるんじゃないかなと。本当に見ていただきたいと思います。

 

【 田村 】
アグニエシュカディレクターは、WROメディアアートビエンナーレの主催者側の一員として《Senster》を発表する立場にいたわけですが、なぜいまこの作品が重要なのか聞かせてください。

 

【 アグニエシュカ 】
この作品は、メディアアートの先見性や未来を想像する力を感じさせる素晴らしい例です。メディアテクノロジーを扱うアーティストたちが、自分たちが生きている時間を超えて未来の可能性を思い描くことができるということを示すものだと思っています。また、テクノロジーやエンジニアの技術を芸術に応用することで、とても魅力的な作品が生まれる好例だと思います。

長い間行方不明でしたが、《Senster》は人工生命に着目する多くの思想家や芸術家にとって、さらなる実験への道を開く素晴らしいインスピレーションになってきたのです。

私にとって最も重要なのは、《Senster》が自然とテクノロジーを結びつける存在だということです。つまり、人間とテクノロジーを結びつけているとも言えるのです。初期のサイバネティクスという考え方やコンピューティングという方法を用いて、まるで本当に生きている動物かのような動きをするのですが、それを見ているとなんだか自然という概念そのものが拡張するような気持ちもしますし、機械が、あらゆる生き物の隣で生きていくような新しい生態系を提唱するものだと思っています。

 

【 田村 】
《Senster》の名前の由来はsensitive monster/センシティブ・モンスター (sensitive:神経質な、繊細な、などの意)から来ているということです。本当にモンスターという感じもするなと思っています。ぜひ直に見ることのできる《Senster》を、楽しみにしていただければと思います。

そしてもう一つ、メディアアートの重要作品として紹介するのは、三上晴子(みかみ せいこ)による《欲望のコード》です。

 

三上晴子は2015年に残念ながら亡くなってしまったのですが、長い間メディアアートの先駆者として活動されました。《欲望のコード》は2010年に発表されましたが、実は当時は未完成の作品でした。私たちは今、外を出歩けば監視カメラに映され、さまざまなことがデータ化されていて、近い将来はあらゆるものに顔認識技術が搭載され、個人情報が管理されるような時代に生きています。三上晴子は、そこから日常が暴き出されてしまうような状況を作品空間として出現させることまでイメージしてこの作品を作ったと言われています。

しかし、発表当時は、インターネット環境などが(三上さんの作品イメージの)実現に追いついていませんでした。三上さんは、技術革新が追いつけば、作品が完成に近づくと考え、バージョンアップを想定した変化していく作品として発表しました。しかし、完成の前に三上さん自身の身体に限界がきてしまったのです。

ですが昨年、その意思を受け継ぐ、三上さんの教え子などを中心にした技術者集団が結集し、バージョンアップした作品がついに完成しました。その《欲望のコード》最新バージョンを、今回モエレ沼公園で公開する予定です。これまでに世界各国で公開されている作品ですが、最新バージョンの公開は、世界初となります!

アグニエシュカディレクター、今回メディアアートを中心に紹介しますが、「メディアアートってやっぱりちょっとわかりづらいな」とか「自分たちから遠い存在なのかな」と感じる人も多いと思うのですけれど、私たちとしては一番身近なアートの形態だと思っていますよね。

 

【 アグニエシュカ 】
現代アートという言葉を「現代に生まれたアート」と解釈するのであれば、メディアアートは現代アートの中でも最も現代的なものだと思うんです。私たちは誰でも生活のあらゆる場面で、便利さや娯楽のためにスマートフォンなどのデバイスを使用していますが、アーティストにとってこれらのデバイスは創作のためのツールであり、さらにそのツールがいかに私たちの生活に影響を与えるかということを批判的な目で検証する対象でもあります。

その意味で、急速に変化するテクノロジー自体を創作に使っていくというのは、常に動いている、常に変化している現実を切り取るのにとても適したツールだと考えています。SIAFでメディアアートを紹介することで、来場者の皆さんと一緒にこの目まぐるしく変わる現実を見つめて、それが私たちや私たちの関係にどのような影響を与えるのかといったことを共に考えて行けたらと思います。

主に札幌芸術の森を中心にメディアアート作品を紹介していくのですが、札幌芸術の森では子ども連れの家族を含め、あらゆる人に楽しんでもらえるような遊び心のある展示にしたいと思っています。他の会場でもさまざまなメディアアート作品を展示するので、来場者の皆さんと共に、この比較的新しい分野について歴史的な観点から位置付ける試みも提案したいと思っています。

 

【 田村 】
メディアアートは、最新のテクノロジーを使っているというだけでなく、技術や利便性の裏に隠れてしまう、さまざまな問題や影響に気付かせるような視点が含まれています。私たちの日常や生きる環境を、いま一度考えるきっかけになると思います。札幌芸術の森会場ではこのような作品の展示を予定しています。今回は2組のアーティストのみの発表ですが、その他にも多様な視点を提起するような作品を取り扱う予定です。

ぜひこちらも楽しみにしていてください。

 

〈ポイント2 コレクションとSIAFの融合〉

【 田村 】
では次に、SIAF2020の見どころ二つ目、「コレクションとSIAFの融合」です。北海道立近代美術館の所蔵作品とSIAFが紹介する現代アーティストを融合させます。

北海道立近代美術館は、開館以来、日本全国や世界中から優れた美術作品を収集・展示していますが、特に道内作家や北海道に関連した作品を収集しています。今回参加アーティストとしてご紹介した神田日勝(かんだ にっしょう)は、昨年の朝ドラ「なつぞら」で主人公のなつに絵を教えた青年のモデルとも言われていました。

《室内風景》という作品は、ご覧になった方もいるかもしれません。

今回の芸術祭では、北海道立近代美術館が所蔵する著名な作品や、北海道の歴史に深く関わる作品などを、SIAFならではのセレクションで展示します。コレクションと一緒に展示される若手アーティストによる新しい作品は、北海道の歴史や地理、文化などをリサーチして制作される予定です。

「近代美術館のコレクションは何度も見たよ」という方もいらっしゃるかもしれませんが、展示のされ方や新しい作品と一緒に鑑賞することによって、見え方やストーリーが変わるかもしれません。ぜひ楽しみにしていただきたいと思います。今回、近代美術館での展示作家として、後藤拓朗(ごとう たくろう)、大槌秀樹(おおづち  ひでき)を発表しました。

天野ディレクターから、近代美術館の所蔵作品と若手アーティストたちのコラボレーションについてお話いただけますか。

 

 

【 天野 】
実は私は1980年代に、ここ(北海道立近代美術館)で最初の学芸員生活をスタートさせていただいたということがあり、こういう関わりのあるところでまたお仕事ができることは非常に嬉しいです。私は今横浜におりまして、横浜美術館で「横浜トリエンナーレ」にも何度か関わったり、国内外の芸術祭をいろいろ見たりする中で気になっていることがあります。

それは、それぞれの都市や地域の美術館や博物館を会場にしているのですが、真新しい作品がそこに並んでおり、そもそもそこの機関・施設で自ら蓄積したようなこと、コレクションも含めてですが、どうも担当のエキスパートの人たち、学芸員の人たちが埒外にあって、当事者性が低いことです。

今回、「場所として北海道をもう一度捉え直したい」ということが一つのテーマ設定としてありました。ご紹介した後藤さん、大槌さんという若い二人のアーティストが、実は北海道の炭鉱についてのリサーチをやっている最中なんですね。僕は炭鉱っていうのは、日本の、北海道だけではなくて明らかに一定の文化形成をしたと思っています。そういう(若手アーティストによる)作品と北海道立近代美術館の蓄積されたコレクション、中でも北海道に縁があり、密接に関わるような作品とのコラボレーションを見せたいと思っています。美術作品というのは文脈が変わると本当に違うように見えるというのが一つの魅力なんですけれども、皆さんにとって見慣れたコレクションが違う意味として浮上してくるのではないかなというようなことも期待しています。

 

【 田村 】
さらに、北海道立近代美術館の隣にあるmima三岸好太郎美術館でも、コラボレーションを予定しています。今回発表したのは、青山悟(あおやま さとる)、原良介(はら りょうすけ)の2名ですが、彼らは参加作家兼企画者としても関わります。

三岸好太郎が31歳という若さで亡くなったことに着目して、アーティストのキャリアにとって31歳とはどのような意味を持つのかをテーマに展覧会を構成しようと考えています。

今回2名のアーティストと一緒に紹介している作品は、彼らが31歳の時に作った作品ということで、三岸好太郎の作品と共にさまざまなアーティストが31歳当時に制作した作品を集めて、アーティストの取り組みの姿勢を検証していきたいと思います。 

 

〈ポイント3 札幌ならではの芸術祭〉

【 田村 】
では次に、「札幌ならではの芸術祭」としてどのようなものを準備しているのかご紹介します。

私たちディレクターチームは、美しい雪が降り積もる冬の札幌で芸術祭を開催できるということが大変特別なことだと思っていますが、さらに札幌で開催する芸術祭ならではの魅力も考えています。まずは、寒冷地でなければできない屋外作品です。

今回発表したアーティストの中では、中﨑透(なかざき とおる)、持田 敦子(もちだ あつこ)がモエレ沼公園で、屋外作品を制作する予定です。

この2名のアーティスト以外の展示も現在検討しています。雪や氷を使った作品は、ご想像通り解けて無くなってしまうものですので、まさにこの時期、この場所でしか見ることのできない展示になると思います。天野ディレクターは、国内の他の芸術祭に関わっていらっしゃいますが、このように冬の寒冷地の気候を生かした展示をすることはどう思っていますか。

 

【 天野 】
北欧、フィンランドなどで雪や氷をテーマにしたフェスティバルというのはあるのですけど、私が最初に(冬に芸術祭を開催すると)聞いたときは「嫌だなー」「どうしたらいいんだろう」って思って(笑)

というのは、今(2020年2月)開催している「さっぽろ雪まつり」もそうですし、札幌市民交流プラザでは北海道全域の雪にまつわるフェスティバルに関するリサーチ展示も開催されましたが、先駆的というか、すでにいろいろな試みがなされています。その中で、一体SIAF2020で何が出来るだろうということは、我々のみならず、今アーティストも現在苦戦・格闘中です。

美術作品とは、例えば道立近代美術館の所蔵作品もそうですが、英語で言うと「パーマネント・コレクション」と言って、パーマネント=永遠に、半永久的に残すというものなのです。しかし基本的には残らないもの、雪は特に残らす消えていくかもしれないですが、雪や自然環境を何らかの形で再考するきっかけになるような作品が出てきつつあります。美術の分野の人たちが積極的に雪に向かって何かするというのは、少なくとも国内ではあまり聞いたことがないと思います。それが出来るのがまさに大都市でこれだけの積雪量がある北海道・札幌ならではではないかと思っています。

【 田村 】
そうですね、北海道で暮らす人々にとっては、この雪とどう付き合っていくのかというのが非常に大きなテーマだと思います。アーティストたちは(雪国の生活における)先輩に習うというか(笑)、北海道の人たちがどう雪に向き合ってきたかということを踏まえながら(作品制作に)向き合ってくれるのではないかと思います。

北海道の人たちの雪との向き合い方の1つの例としてはやはり、今開催中の「さっぽろ雪まつり」があると思います。この「さっぽろ雪まつり」を会場とした展開も予定しており、それも札幌ならではの芸術祭の一つの魅力になると考えています。雪まつりで製作されるもの・見られるものには、大きな雪像をイメージされると思いますが、芸術祭では、従来の雪まつりにメディアアートの視点を加えて、みなさんに参加していただけるような体験型の展示を予定しています。もう一つの特徴として欠かせないのが、アイヌの人々・文化です。芸術祭としても、アイヌの人々と一緒に考えていくということが非常に重要だと捉えています。

札幌国際芸術祭という名称とテーマ「オブ ルーツ アンド クラウズ:ここで生きようとする」は、アイヌ語でも発表・表記しています。アイヌの人々・文化など、アーティストと一緒に取り組んでいく作品については丁寧に準備を進めていきたいと思っていますので、次回9月の記者発表のときに詳しくお伝えしたいと思います。

もうひとつの「札幌ならでは」のポイントに、ここにしかない特別な「場所」を最大限活用した展示があります。例えば、モエレ沼公園には、夏の冷房に使用するための雪を貯めておく「雪倉庫」という施設があるのを皆さんご存じでしょうか。今回この「雪倉庫」をインスタレーションの会場として使用することを予定しています。ここで作品を展示する作家はジュリアン・シャリエールです。現在、世界的に目覚ましい活躍をしている若手のアーティストです。彼は、私たちが生きる環境に目を向け、その厳しく深刻な状況を取り上げつつ、しかし美しく魅力的な写真・映像作品を作っています。

「雪倉庫」では今深刻な問題となっている、北極圏の氷河の融解をテーマとした音と映像の迫力ある作品を展示します。アグニエシュカディレクター、ジュリアンさんもこの雪倉庫で作品を発表できることを楽しみにしていると聞きましたが、この作品について思うところはありますか?

 

【 アグニエシュカ 】
ジュリアンは、札幌にしかないこのユニークな場所で展示できることをとても楽しみにしています。モエレ沼公園の雪倉庫は、展示場所として特別なだけでなく、環境科学と文化史的なものを橋渡しするような作品を作っているジュリアンにとって大きな意味を持ちます。

作品の中で映し出される映像は、北極だけでなく、スイスのローヌ氷河を含め、気候変動の影響を大きく受けたさまざまな地域で撮影したものです。この作品は、環境科学と文化史をつなげながら、自然とテクノロジーの複雑で定義の難しい関係性を示します。

写真や映像には、自然環境の地理的な調査において「調査・発見」という重要な側面があります。写真や映像は、発明後かなり早い段階から自然調査における科学的な記録のツールとして研究者に使われてきたという歴史があります。

一方で、写真や映像の登場によって、世界中の人々が、普段は足を運べない地球上の遠く離れた場所の素晴らしさや美しさに魅了されるということが起こったわけですが、それは同時に未開の土地や守られるべき土地が人目に晒され、その素晴らしい資源が商売道具に使われたり、商品に変えられてしまったという側面も否めないわけです。そして現在私たちは、自分たちの行動がもたらした気候変動の危機を把握するためにもテクノロジーや写真・映像を使っています。ジュリアンの作品にはこれら全ての要素が入っています。モエレ沼公園で展示されることで、さらに新たな意味をお届けできると思います。

 

【 田村 】
この他にも、雪がたくさん降る札幌ならではの施設での展示やパフォーマンスを検討中です。普段は一般の方が入ることのできない場所や空間を存分に生かしたアート作品が見られるという、特別な体験になると思います。

他にもいろいろな場所を会場として想定しています。例えば、歴史的建造物である札幌市資料館では、プシェミスワフ・ヤシャルスキとライナー・プロハスカという2名の作家が、建物そのものの歴史や持続可能な社会をテーマとする作品を予定しています。

また、クラウス・ポビッツァーは地下鉄大通駅とバスセンター前駅をつなぐ地下道にある札幌大通地下ギャラリー 500m美術館で展示を予定しています。彼は、実在する人物・歴史的な人物の写真をもとにポートレートを描き、それを組み合わせて巨大な作品を作っています。SIAF2020では、札幌で出会った人々やこれから出会う人々が中心となった新作が描かれる予定です。500m美術館は長い通路の会場なので、札幌市民の方々を中心とした絵巻物のようなものができ上がるのではないかと想像しています。ぜひ皆さんにもこの絵のモデルになっていただきたいと考えています。4月以降に詳細を発表する予定です。

注目していただきたい三つのポイントの紹介は以上です。

 

【 田村 】
次に、コミュニケーションマークを発表します。皆さんが手にしている冊子や袋に印刷されているマークが、SIAF2020に向けて使用する「コミュニケーションマーク」です。これは、SIAF2020アートディレクター&デザイナーに就任した札幌を拠点とするデザインコンビ、ワビサビがデザインしました。

SIAF2020のテーマである「ルーツ」と「クラウド」を感覚的に親しんでいただきたいということで、根と雲を表現したマークになっています。単なるロゴではなく、コミュニケーションのツールとして使っていきたいので、「コミュニケーションマーク」と呼んでいます。また、イメージカラーのブルーは、日本の伝統色で「空色」と名前が付いています。札幌の冬の晴れ渡り澄み切った大空をイメージさせる色としてメインカラーにしました。

このマークは、大空に広がる雲や土の中でどんどん伸びる根のように、どんどん変化させていきたいと思っています。その変化も皆さんに楽しんでいただきたいです。

続いて、私が担当しているコミュニケーションデザインについてご説明します。

コミュニケーションデザインでは、芸術祭と来場者をつなぐことを目的に、展覧会の中身だけではなく、展覧会をどのように届けるか、ということを考えています。「アートメディエーション」をキーワードに、芸術祭を伝えるためのさまざまな方法を検討し準備しています。アートメディエーションには、「アートを媒介する」という意味があります。SIAFに関わるすべての人に芸術祭を楽しんでいただくための基本的な考え方として、ディレクターだけでなく、アーティストやスタッフ、来場者の方にも広く知っていただきたいと思っている言葉です。例えば、イベントを開催したり、アーティストの言葉を直接聞ける機会を増やしたり、展覧会に付随したプログラムをやっていく他にも、今回の記者発表をなるべく堅苦しくなくやろうとか、お配りしている冊子(開催概要)も、単なる資料としてではなく楽しく見ていただきたいということで、ワビサビさんと一緒に雑誌風にデザインしてみたりとか、そういったことにも通底しています。これからもいろいろな取り組みを行っていく予定です。

アートメディエーションの核になるのが、芸術祭とさまざまな人を媒介する「アートメディエーター」は、芸術祭と来場者のつなぎ役として、

・鑑賞者来場者と作品をつなぐための鑑賞をサポートするメディエーター
・札幌に来てくれた方をおもてなしするような案内役としてのメディエーター
・準備段階からアイデア出し、企画づくりにも一緒に参加するメディエーター

などの関わり方を用意しています。従来の「ボランティア」を発展させたような活動となる予定です。

会期中には、アートメディエーターの活動に加え、子どもから大人まで、どんな人でも参加しやすい取り組みも実施する予定です。アートメディエーションという言葉は国内ではまだあまり聞かれませんが、世界的には、「展覧会」と「作品」と「アーティスト」と「鑑賞者」をつなぐ試みとして浸透してきています。皆さんにもその一員となって参加していただきたいと思っています。

 

【 田村 】
それでは最後に、私たちのチームを改めてご紹介します。

2019年7月の発表から、さらに多彩なメンバーが追加になりました!各メンバーの詳しい経歴は配布資料(概要資料 p.33)に掲載しております。

まずはキュレーターチームです。今回、地元のキュレーターを中心に展覧会を一緒に作っていく取り組みをしています。そのキュレーターチームには、
アートメディエーション担当に、マグダレナ・クレイス。
モエレ沼公園担当に、宮井和美(みやい かずみ)。
北海道立近代美術館とmima北海道立三岸好太郎美術館担当に、中村聖司(なかむら せいじ)。
札幌芸術の森担当に、佐藤康平(さとう こうへい)を迎えています。
企画にまつわる実践的なアドバイスをするキュレトリアルアドバイザーに、上遠野 敏(かとうの さとし)とヨアシャ・クルイサ。
アイヌ文化についてのアドバイザー・コーディネーターとして、マユンキキをチームに迎えています。

そして本日は、キュレトリアルアドバイザーの上遠野さん、キュレーターのマグダレナさん、宮井さん、佐藤さん、アイヌ文化コーディネーターのマユンキキさんに会場にお越しいただいています。地元北海道を良く知るメンバーと、国際的に活躍するメンバー、そして、私たちディレクター3名のチームで各会場の企画を進めておりますので、皆様あらためてよろしくお願いいたします。

 

【 田村 】
以上になりますが、最後に各ディレクターから意気込みを伺って終わりにしようと思いますので、天野さん最後のひと言決めてください!

 

【 天野 】
意気込み…激しく意気込みあるんですけど(笑)。

今回の記者発表のために昨日札幌に入りまして、何十年かぶりらしいんですが、前の日に40cmくらいの雪が1日で降ったとありました。(補:さらに2019–2020年の冬は深刻な雪不足だった)つまり自然はそもそも我々が予測できないものです。今回冬季、つまり雪のある風景の中で開催すると言いながらも、ひょっとすると雪がないところから始めなければいけないかもしれない。実はアーティストの方も、雪がない状態から雪がある状態、その風景を両方考えながら、現在取り組んでいるところです。

先ほどの繰り返しになりますが、SIAF2020は、美術館でゆっくり見てもらえる作品もあれば、おそらく皆さんが入ったことのないであろうところでも作品を鑑賞していただきます。雪や氷と密接に関わるところなんですけども、出来れば今までになかったような自然との取組みたいな作品を、何とか皆さんの前にお示しできるようにしたいなと思っておりますので、よろしくお願いします。

今日は本当にありがとうございました!

【 田村 】
ではアグニエシュカディレクターから。

 

【 アグニエシュカ 】
私たちは2018年からコンセプトを練りながら準備を進めていますので、このタイミングでやっと作品の形も見えてきて、すごく楽しみになってきました。ライナー・プロハスカやプシュミスワフ・ヤシャルスキ、クラウス・ポビッツァーのように、札幌に直接関係する新作のコミッションも始まったのでとても楽しみです。

作品の準備というのはチャレンジングな場面や大変なこともありますが、そういった取組をサポートしてくれる国際的なパートナーの協力も得始めています。東京からはオーストリア文化フォーラムにご協力いただくなど大変心強く感じています。アーティストの視点を通して、SIAF2020のより普遍的な意義を見つけていけるのではないかと思っています。そして、そのプロセスを、アーティストと北海道をはじめとする来場者の皆さんと楽しみたいと思っています。12月から始まる芸術祭を、私自身本当に楽しみにしています。皆さんもぜひお友達やご家族と一緒に芸術祭を訪れていただけたらと思います。

 

【田村】
私の意気込みについては、もう十分伝わっているかと思いますので、記者発表の内容は以上とさせていただきます。ぜひ今後の発表も楽しみにしてください。

次回の記者発表は9月の予定です。ありがとうございました。

 

(左からアグニエシュカディレクター、天野ディレクター、秋元実行委員長、田村ディレクター)

photo:Noriko Takuma

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