「アート×エンターテイメントの最前線—真鍋大度の創造性—」を開催しました!
札幌に上陸する注目のパフォーマンス『discrete figures Special Edition(ディスクリート フィギュアズ スペシャルエディション)』の公演を10月6日(日) に控え、「アート×エンターテイメントの最前線—真鍋大度の創造性—」と題したトークイベントが8月31日(土)に札幌・図書情報館で開催されました。
当日モデレーターを担当したSIAF事務局の細川が、トーク報告に合わせて『discrete figures Special Edition』の見どころをご紹介します。
真鍋大度とはどんな人物か?
真鍋さんは、今回のパフォーマンスの技術面を担うRhizomatiks Researchの主宰として、社会にもインパクトを与えるプロジェクトを次々に手がける一方で、自身もアーティストとして活躍しています。
トーク冒頭は、真鍋さんのご両親や幼少期などの写真とともに自己紹介から始まりました。
音楽関係の仕事に関わるご両親の元、数学が得意なゲーム好き少年が、音楽にどっぷりとハマりながら、大学では数学を学び、社会人経験を経て、IAMAS(岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー)という専門学校(当時)で本格的にメディアアートを学びます。
真鍋さんの現在の活躍は、これまでの過程にしっかりと繋がっていることを感じつつ、真鍋さんの視線が次第に鋭くなるのを紹介される写真から感じました。
同時に、札幌市図書・情報館に配架されていた真鍋さんが影響を受けた書籍も紹介されました。
森田 真生『数学する身体』新潮社(2015)
ヤニス・クセナキス『音楽と建築』全音楽譜出版社(1989)
2006 年、Rhizomatiks(ライゾマティクス)が真鍋さんを含む4名で始動します。
現在では、華やかなアーティストとのコラボレーションや国際的なプロジェクトで広く名前を知られるRhizomatiksですが、モデレーターの細川は、文化庁メディア芸術祭(優れた作品を世界中の応募作から選出するコンテスト)で活躍する一人のアーティストとして真鍋さんの名前をRhizomatiksより前に知ることになります。
そこで、今回のトークでは、この芸術祭で選出された真鍋さんの初期の作品から、世界のフェスティバルで注目されることになる代表作までを時系列に紹介しました。
*作品詳細は、作品タイトルをクリックすると文化庁メディア芸術祭の公式サイトでご覧いただけます。なお( )内は受賞年度です。
世界的に認知度をあげることになった筋電位センサーを使った『Face visualizer, instrument, and copy』、アート部門の優秀賞となる真鍋大度/石橋素による巨大な光のインスタレーション『particles』(2011)。
そして2年間連続でエンターテインメント部門大賞を受賞した『Perfume "Global Site Project"』(2013)、『Sound of Honda / Ayrton Senna 1989』(2014)。
作品を追うことで、一人のアーティストという立場から、様々な才能や組織の軸となり巨大なプロジェクトを実現させていく真鍋さんの跳躍を感じることができます。
2015年、アート部門で優秀賞に選ばれたのが、2014年の札幌国際芸術祭のために坂本龍一さんとコラボレーションし制作された『センシング・ストリームズ ー 不可視、不可聴』です。
これらの作品は、アートとエンターテインメントと異なる評価軸を持つ両方の部門で高い評価を受けていることが分かります。
そして、昨年は『discrete figures』がアート部門、『Perfume × Technology presents “Reframe”』のプロジェクトがエンターテインメント部門と異なる部門でダブル受賞となりました。
この2つのプロジェクトは、双方とも真鍋さんの今一番の関心事である「機械学習を用いた振付やポーズの解析及び生成」を取り入れながら、新しいダンスパフォーマンスを生み出す、というコンセプトは共通しているということです。ではアートとエンターテインメントという違いはどのような点だと感じるかとお聞きしたところ、エンターテインメントには、アウトプットの先にクライアントやファンがいるが、アートはそれ自体が実験的であり、実験自体が作品化されることもあるというコメントがありました。
そして、後半、アート部門で選ばれた『discrete figures』を、その実験的なポイントを見ながら魅力を探っていきました。
『discrete figures Special Edition』の見どころ
『discrete figures』では、鑑賞者が舞台上の現実とスクリーン上で作り出される虚構の世界の境界を行き来するような感じを作りだし、その境界を曖昧にさせてみたいという真鍋さん。
この挑戦を実現させるのが、公演タイトルに記載されている3組のクリエイターRhizomatiks Research × ELEVENPLAY × Kyle McDonaldです。
真鍋さんが率いるRhizomatiks Researchは、Rhizomatiksの中でも最新のテクノロジーや表現の研究・開発に特化したチームです。
つまり『discrete figures』の革新的な表現を実現する原動力がRhizomatiks Researchです。
そして、ELEVENPLAYは、演出振付家MIKIKOさんが率いる女性で構成されたダンスカンパニーです。
ELEVENPLAYのメンバーはこれまでもRhizomatiks Researchと多くのコラボレーションを行なっており、鑑賞者は舞台上でこのメンバーのパフォーマンスを見ることになります。
鍛錬された身体とパフォーマンスで新しいテクノロジーを交えた表現を支え、観るものを魅了してくれるでしょう。
さらには、世界的なメディアアーティストであるKyle McDonald(カイル・マクドナルド)さんがスクリーン上の演出に生かされる機械学習のプログラムでバックアップをします。
この豪華なコラボレーションによって実現した『discrete figures』は、カナダ・モントリオールで初演を迎え、各国をめぐる世界巡回ツアーを実施しました。
日本では東京で昨年3回公開されたのみです。その様子は映像で見ることができます。
また東京公演で使用された技術の詳細はウェブサイトで公開されています。
https://research.rhizomatiks.com/s/works/discrete_figures/index.html
そして、札幌公演は、Special Editionとして、世界初演のアップデート版として公演されることになりました。
それが実現できるのは、札幌文化芸術劇場 hitaru での実験ができるからだということです。
今回の公演では、真鍋さんの長年のパートナーである石橋素さん、MIKIKOさんを含めたエンジニア、ダンサーと共に札幌入りし、5日間で集中的に実験を重ねながら公演をアップデートするということでした。
ですので、どんな要素が追加されるかは、その期間で急に決まることもあり、自身も楽しみにしているということでした。
またトークでは、『discrete figures』の公演までにリサーチを重ねた映像の歴史やコレオグラフィー(振付)の変遷のデータアーカイブも紹介されました。
中には、デジタル技術を活用できる前の時代の現代美術の巨匠が身体の動きに着目し、実験をしている様子なども含まれていました。
過去から繋がる造形表現の歴史を踏まえているからこそ、最新である表現のあり方を野心的に模索できることもこの一例から感じることができました。
今回の公演で中心となる4役(アーティスティックディレクション・音楽・ライティング インタラクションデザイン・ソフトウェアエンジニアリング)をこなす真鍋さんの創造性の秘密は、尽きない実験精神と意欲。
今後ますます活躍の場を広げる真鍋さんの現時点での最新作を札幌で体験できる機会はいよいよ1ヶ月後。
10月6日、楽しみです。