イベントレポート
2022.10.06

ポッドキャストプログラム「SIAF Director's Lounge」Vol.1 ゲスト:秋元克広 札幌市長
不確実な未来を生きるための“学び”としての芸術祭。秋元札幌市長と考えるSIAFの役割

SIAF2024ディレクターの小川秀明をホストに、さまざまなゲストを招いてお届けするポッドキャストプログラム「SIAF Director’s Lounge」。第1回目は 札幌国際芸術祭実行委員会の会長である秋元克広札幌市長を招きました。SIAF2024はいわゆる「芸術祭」とはちょっと違います。どこが違うのか、SIAFはどうありたいのか、改めて言葉にします。
※このテキストは、ポッドキャストでの対談を元に、対談記事として編集しています。


おそらく変わっていく、札幌と雪の関係

小川
秋元市長とお話するのは、2022年の2月に私が札幌を視察して以来、2回目ですね。

秋元
あのときは一面が雪に覆われていましたが、今はすっかり暖かくなりました(収録は2022年5月18日)。ちょうど、ライラックの花が満開です。

小川
私が住むオーストリアのリンツも、ライラックが咲いています。実は札幌とリンツは気候が似ているんです。また、両都市はユネスコ創造都市ネットワーク(UCCN)の仲間でもあります。距離は離れていても、2つの都市で共通して取り組めることも多いと思います。

秋元
今回のSIAFのテーマは「LAST SNOW」。正直に言えば、雪は日常生活において非常に厄介です。だからこそ私たちはどうやって雪を克服するか、活用するかについて知恵を絞ってきました。良くも悪くもとても身近な「雪」をSIAFの切り口にしたことで、私たち札幌市民にとっても親しみやすくなったと思います。

小川
札幌市民にとって雪は、あって当たり前の存在です。しかし、それは未来においても当たり前とは言い難いのです。地球温暖化が進み、さまざまなテクノロジーが発達し、これまでの常識や既成概念が崩れていく不確実性の高い時代において、雪は未来を考えるためのさまざまなメタファーになりえる。だからこそSIAFを「はじまりの雪」として、未来に向けたさまざまなことを試すチャンスにしたいと考えているんです。

秋元
私はこれまで、地球温暖化によって雪は減るものだと考えていました。貴重になっていく雪を札幌ではどう活用するかに知恵を絞らねばならぬと。しかし、今年の圧倒的な大雪を体験したことで、固定概念が覆りました。地球温暖化により海水温が上昇して大雨をもたらすのと同じように、大雪も引き起こすのです。これからも海水温は上昇することが予測されていますから、これまで札幌市民が体験したことのない、局地的な大雪や嵐などに襲われるかもしれません。SIAFが、都市と自然の調和や私たちの未来について、市民一人ひとりが考えていくきっかけになってほしいと思っています。
 
鑑賞する芸術祭でなく、未来への学びとなる芸術祭に

小川
SIAFでは「芸術祭」がこれまで扱ってきた領域とは、ちょっと違うことを試みようと思っています。集めてきた作品をみんなで鑑賞するのではなく、街を「未来を体感する実験区」に変える、それらを通じて学びの場・教育機会を提供したいんです。捉えようない未来というものを、アーティストの感覚を通して、私たちが知覚できる作品にしてもらう。そこに描かれるのは、ボジティブな未来もあれば、目を背けたくなるような未来もあるでしょう。街にたくさんの未来を連れてきて、市民のみなさんに体感してもらうんです。今回のSIAFは、未来体験・未来教育を提供する「未来のための文化インフラ」であり、アーティスト・市民・観光客・企業などさまざまな人が参加する社会実験なんです。

秋元
小川さんが在籍しているアルスエレクトロニカは、リンツ市における「未来への文化教育インフラ」であり、子どもにも大人にも、教育の機会と体験の場になっているとお聞きして感銘を受けました。水道局が「蛇口をひねれば水が出てくる」環境を維持しているように、アルスエレクトロニカは「蛇口をひねれば未来が出てくる」状況をつくっているともおしゃっていましたね。今回のSIAFも、さまざまな人が、学び、体験し、議論していくような教育的な側面があることが非常に重要だと思っています。

小川
僕も、秋元さんも、市民の皆さんも、アーティストも、企業も、それぞれがSIAFをラストチャンスと捉えて、未来のために何を始めるか、なにを描いていくか。そういった芸術祭が実現できれば、不確実性の高い時代を生きるためのコンパスを一人ひとりが手に入れることができると思います。だからこそ「LAST SNOW」であり「はじまりの雪」でもあるんです。

秋元
改めて市民のみなさんに伝えたいのは、SIAFにはいろいろな人が創造性を発揮する「創造都市」の実現の思いを込めていることです。特に今回のSIAFは、単純に何か鑑賞する場、展示会・展覧会ではなく、未来を語り、実験する場にしたいと思っています。これをなるべく多くの人に伝えたいですし、市民のみなさんも実験に参加する一員になってほしい。こうした思いを、さまざまな形で発信していこうと思います。

小川
SIAFは、創造都市札幌における「創造エンジン」だと思っています。エンジンが回り始めたとき、創造都市として走り始められる。エンジンになるには、創造的で未来志向な価値観を持った人々が集まることが大事です。市民もアーティストも企業も、みんなで話して、コラボレーションしていきましょう。秋元市長、今日はどうもありがとうございました。

秋元
ありがとうございました。

Hide's One Minute Keyword for SIAF2024
〜SIAF2024を深く楽しむキーワード〜
 
創造エンジン
エンジンとは、物事を動かし前に進める力、原動力です。僕は創造エンジンを「創造を促し、未来を生み出す原動力」と捉えています。
僕が目指したい芸術祭は、未来志向やイノベーションを触発する機会になる、創造エンジンとしての芸術祭です。
SIAF2024がこの札幌の創造エンジンとなるように進めていきます。

編集:葛原信太郎

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