イベントレポート
2022.10.12

ポッドキャストプログラム「SIAF Director's Lounge」Vol.2
未来へのツールやアイデアが集積する。『WIRED』日本版編集長の松島倫明さんと考えるSIAF2024の可能性

SIAF2024ディレクターの小川秀明をホストに、さまざまなゲストを招いてお届けするポッドキャストプログラム「SIAF Director’s Lounge」。第2回は、未来を実装するメディア『WIRED』日本版編集長の松島倫明さんです。SIAF2024と『WIRED』日本版に共通する「ポストプラネット・キット」な視点について語りました。

※このテキストは、ポッドキャストでの対談を元に、対談記事として編集しています。


気候危機を生き抜くための『ツール』

小川
松島さんとは、僕の本業である「アルスエレクトロニカ・フェスティバル」に関連するイベントなどでこれまでも度々お世話になっています。さらに2022年6月に発売された『WIRED』vol.45「AS A TOOL」号ではSIAF2024のテーマについてインタビューもしてもらいました。まずは改めて松島さんが編集長を務める『WIRED』日本版について説明いただけますか。

松島
『WIRED』日本版は「未来を実装するメディア」です。元々は1993年にアメリカの西海岸で創刊され、日本版は1994年にスタートしました。テクノロジーの進化を通して、カルチャーから、サイエンス、ビジネス、医療、エンターテインメントまで、社会のあらゆる事象について「未来がどうなるのか」について語ってきたのです。

小川
続けて、SIAF2024について掲載いただいた号のテーマ「AS A TOOL」についても教えてください。松島さんからのインタビューや対話を通じて、AS A TOOL号の問いかけは、SIAF2024が投げかけようとしている問いかけと本質的に同じだと感じました。

松島
AS A TOOLとは「Something as a tool」。つまり、何かをツールとしてもう一度捉え直すという意味です。それに「気候危機を生き抜くツールカタログ」というサブタイトルを添えました。気候危機と共に生きていかなければいけない僕たちは、どんなツールを手に入れるべきか、あるいは何をツールとして捉えるべきか。ツールの概念を広げながら、僕らのアクションも促していくような特集をつくれればいいなと思ったんです。
この企画の大元は『ホール・アース・カタログ』を2020年代にアップデートしたらどんな視座が必要か、でした。『ホール・アース・カタログ』とは、1960〜70年代にアメリカで発刊されていた雑誌です。大量生産、大量消費を前提とした資本主義に世界中が突き進む中「再び自然に寄り添って、地球と一緒に暮らすためには何が必要なのか」を厳選してカタログとしてまとめたもの。いわゆる購買意欲を煽る一般的なカタログではなく、現状や課題に対して人間が一歩前に進むために、必要なものが並んでいたんです。

『プラネットB』を生きる僕らに必要なこと

小川
この号の制作にあたって、世界中をリサーチして、いろんな方と対談されたと思いますが、どんな新しい発見を得たのでしょうか。

松島
2月にヒデさん(小川ディレクター)と話したときには、AS A TOOLではなく「Access to Tools」というテーマタイトルをイメージしていたんです。これはまさしく『ホール・アース・カタログ』のテーマとして使われていた言葉。一昔前まで、自由にツールにアクセスできたのは、ある種の権威を持つ人だけでした。一般の人たちがアクセスできないものが多かった時代に、ツールへのアクセス方法をまとめることは、人々をエンパワーする革命的なことだったんです。
しかし今は当時と違って、溺れるほどのものや情報に囲まれています。現代の課題は、ツールへのアクセスは簡単なのに気づいていないことや、価値を見出していないことなんじゃないのか。さらに、システムや概念などツールとして捉えていないものをツールとみなすことも必要なのではという答えに行き着いたんです。
加えて、ヒデさんのインタビューで生まれた言葉「ポストプラネット・キット」という言葉も新しい発見でした。もっと早くヒデさんからこの言葉を聞いていたら、特集タイトルになっていたかもしれないくらい深く納得したんです。

小川
気候変動やパンデミックによって、一昔まで考えていた「プラネットA」ではなく「プラネットB」を旅しているのが、現代を生きる僕たちだと思うんです。そのために必要なツールやアイデア、戦略のようなものが、『WIRED』にもSIAF2024にも集まってくるはずだ、と。そんなことを考えていたら「ポストプラネット・キット」という言葉がふと浮かんだんです。

松島
『WIRED』US版の創刊時にエグゼクティヴエディターを務めたケヴィン・ケリーは「今起こっているのは惑星規模の問題なんだから、対処方法も惑星規模でなければならない」という話をしているんです。そうであるならば、ホール・アース・カタログのアップデートには、個人をエンパワーするツールだけじゃなくて、惑星をエンパワーするようなものも含めるべきでしょう。「ポストプラネット・キット」は、まさに今回の号で僕らがやりたかったことを言葉にしていただいたなと思っています。

小川
これってつまり「ヒューマンセンタード(人間中心)デザイン」から「プラネットセンタード(惑星中心)デザイン」への転換とも言えると思うんです。僕たちはこれまでずっと「どうやったら人間にとってより良くなるか」という発想であらゆることをデザインしてきましたが、これからは人間ではなく惑星規模で考える必要がある。

松島
気候変動やパンデミックという危機を世界中の人々が体験し、インターネットがあらゆる情報をつなげたからこそ、ポストプラネット・キットの手触りを多くの人が実感し、実装できる時代に入りつつあるのかもしれませんね。

小川
いやぁ、おもしろいですね。SIAF2024と『WIRED』で、ポストプラネット・キットをテーマに継続してコラボレーションできたらいいですね。

松島
いいですね!ヒデさんのインタビューでも「札幌という都市を未来への実験場に見立てる」というお話がありましたが、「AS A TOOL」号でも都市を紹介しているんです。物理的なインフラの話だけではなく、都市にある自然資源も重要なツールになるはずです。都市をどうやって拡張していくのかは、『WIRED』でも考えてみたいことのひとつでもあるので、コラボレーションを実現したいですね。

小川
話は尽きませんが、そろそろお時間です。今日は本当にありがとうございました。

 

Hide's One Minute Keyword for SIAF2024
〜SIAF2024を深く楽しむキーワード〜コモンズ
コモンズとは、様々な資源の共同利用地のことです。
森や漁場などの資源や生態系はもちろん、情報や知恵なども管理の仕方によってはコモンズになります。私たちはどんなコモンズを大切にし、どんなコモンズを必要としているのか。
「未来のコモンズ」とは何かということもSIAF2024では扱っていきます。

編集:葛原信太郎

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