札幌国際芸術祭

コレクティブ・オーケストラは芸術祭の縮図である

藤田 今ここで『コレクティブ・オーケストラ』が行われるのは、大友さんにとって不思議なことじゃないんだろうなって思うんですよ。どういうプログラムを作るのかは、この期間この札幌にどういう人を集めるのかということで、そのことを大友さんはディレクションされてると思うんです。芸術祭を行ってる、ディレクションしてる大友良英と、何でもいいから音が出るものを持って来て、それがオーケストラになるよっていう『コレクティブ・オーケストラ』を作ろうとしてる大友良英のスタンス、姿勢は全く変わりないことだと僕は思うんですよね。

大友 そう。実際に、札幌で芸術祭やるっていったときに、最初期のアイデアとして『コレクティブ・オーケストラ』を、芸術祭のアイデアの根幹に置きたいって話はしていて。それはもう、まさに言った通りで。あんまりオレ、言葉上手じゃないから、そこまでうまく説明できなかったけど。でも本当にそういうことなんですよね。

藤田 だから、芸術祭の縮図のような公演だと、僕はすごい思いますね。

大友 もともとコレクティブ・オーケストラは、ディレクターの有馬さんと東南アジアの各地で、あまり音楽経験のない人たちとアンサンブルを作っていく際に構想していたものなんです。そのやり方で札幌では子どもたちと、しかも藤田さんにも加わってもらってやったらってアイディアは有馬さんから出たものでした。で、私の方でもそれだったら、芸術祭の中でやるというよりは、芸術祭そのものがコレクティブ・オーケストラ的になっていけばいいなって思うようになったんです。

藤田 そういうことって、普段生きてて、一番信用できるなと思うんですよ。完成されたものばっかり、決められたものとか、きれいなものみたいなものだけが評価されるっていうのは、実は危ういと思うんですよね。やっぱり不完全なものだから、人って。そういうことを、大友さんって、具体的に肯定してくれてるなと思って。それってものすごく、2017年現在は、本当にいいことだなと思ってるんですよ。こういうフェスティバルが、しかも自分が生まれ育った北海道みたいな所で行われるっていうのが、嬉しいのと同時に、大友さんと関わってる子どもたちに、めっちゃ嫉妬します。僕も小さい頃、大友さんみたいな人に出会ってたら、また全然違ってただろうなと思って。

有馬 会場からも、今までのお話を聞いて、ちょっとここ聞いてみたいなとか、何かありませんか。こちらが一方的にお話ししてしまったんで、何かもしあればと思ったんですけれども。


質疑応答

質問1

- 今、子どもがコレクティブ・オーケストラに参加しています。学校のリコーダーが吹けるぐらいで、全然楽器もできないままなんですが、それでも参加できるっていうので、参加しています。親としては、あの有名な大友さんがいらっしゃるからっていう打算なんですけど、子どもは一切そういうことはないんですよね。行ってみたら面白そうなことをやってて、あんまりうるさく言わない大人が楽しそうなことやってて、次も行きたいなって言うんです。定期テストとかで行けない期間があったりとかすると「うわ、行きたかった」って言ってるような、この1年だったんですよね。

前回のワークショップで和音についてやったときに、今までコレクティブではやらなかった音が出たって思いました。私たちの今まで習ってきた音楽というか。知ってる音楽ってルールがあって。うまく乗っかったらきれいに聴こえるみたいなルールが。それはそれで、うちの子もこんなことできるんだって、ちょっとびっくりして、すごく感動しました。でも帰ってから、きっと、あれが目指すところではなかったんだろうなと思ったときに、多分、練習とか固定概念とか既成概念とか、あんまり子どもに与えないまま参加させたほうが、きっといいだろうなって思いました。子どもたちは、そういう楽しい場を作ってもらって、いろんな影響を今、受けてると思います。

本番は8月27日なんですけど、でも、今のお話を聞いていると、去年からずっと積んでる経験とか、楽しい時間っていうのが、もう芸術祭だったのかなって思いました。ただ、どういう本番になるのか、今まで1年参加してるんですけど、全く分からないんですよね。

大友 すいません、俺もまだ分かんないです。やりながら考えてる。本番がこういう目標だって言って、そこに向かってるわけじゃあ、決してないんですよ。だから、いろいろ試してるっていうのが正直なとこで。例えば、前回とか今回、和音とか初めてやってみたんですけど、それもこのメンバーでやったらどうなるか試してるんです。で、和音を足がかりにしていいのかどうかも正直分かんない。ただ、和音のある音楽というのは現実にあるので、別にやってもいいし。でも、これが正解だと思わないようにしてほしいと思ってるんです。もちろんそれやると気持ちいいかもだけど、そこばっかりに行ってほしいわけでもなくて。リズムも2拍子、3拍子ってやってもいいし、やんなくてもいいし。

ただ、あることは知ったほうがいいしって、わたしもやりながらまよってるんです。でも、人はずっと無知なまんまではいられないから、やってけば、必ずなんかのステップはあるので。多分、小学校1年生が、なんか知らず知らずに笛でピって出した音は、ずっと音楽やってたら出せなくなっちゃう。人はどうしても学習しますから、しょうがないですよね。だけど、俺、そんなピって音が出せるの、うらやましいなって思うんです。もう俺には出せませんから。仮にそっくりにやったとしても、わざとらしくやってるだけになっちゃって、全然ああはならないんです。

藤田 粗削りって言ってしまうとあれかもしれないけど。こういう音を出す子たちが、これから生きて、どういう音楽を作ったり、音楽じゃなくても、どういう生き方をするかっていうことに、すごい興味があって。プロの完成された音楽聴いても、全然味わえない想像だったりするからものすごく奥行きがある。未来みたいなものを見てるような感じで。いつもみんなが出してる、訳の分かんない得体の知れないものを見て、ちょっと感動してるんですよ。

大友 吉増剛造さんが、去年かな、ワークショップに来たときに、最後の最後にチラっと、別にちゃんと言うわけじゃなくて、子どもたちに「うまくなるなよ」って言って帰ってったんですよ。オレ、その意味すごいよく分かるんです。それは、上手になるなって意味じゃないんですよ。子どもは、ほっといてもうまくなるし。

ただね、上手くなることと、音楽が立ち上がってきたり、生きたものになることは違うんです。楽器がうまくなることと引き換えに音楽がなくなってくってこと、あるんですよ。楽器を始めて持った時に出るような新鮮さをなくさずに成長できたらすごいんですけどね。子どもたちとやっていると、そのこと痛いくらい分かるんです。ちなみにチラシの絵とか写真は、吉増さんのワークショップで作ったものなんです。素晴らしんですよ、これが。

藤田 言葉とかもね。すごいっすよね。

大友 吉増さんのワークショップが本当にすごくて。ポラロイドカメラを子どもたちに渡して、目隠しして撮れって言うんですよ。ピントなんか合わないし、何撮ってるかも分かんない。でもできあがって、何が写ってるか分かんないものでも、吉増さんはそれでOKなんです。写っているものは全て受け入れる。

それって、僕のワークショップにも何か通じるところがあって。子どもたちは、今度それを自分たちで紙に貼って、そこに細かい字をいっぱい書くっていうことで、その写真が立体的に生きもののように生きてくるんですよね。これ自分でもやってみたんだけど、意図して作品にしようとしちゃって、うわ、オレが作ったのやらしいなって、残念なぐらい駄目というか、子どもにはかなわなかったですね。

- ありがとうございます。

質問2

― 僕もコレクティブ・オーケストラに参加してます。僕も小学校の低学年みたいな感じだったらいいんですけど、どうしても計算しちゃうっていうか。こういう感じに行ったら「どんどん来るぞ」みたいな、「おいおい」みたいな感じの自分の気持ちと、いや、そうじゃなくて、そういうジャーっとしたのが、それがいいじゃないけど、そういうファーとなってるのがいいっていう考えがあって。いっつもそれ、どっちがいいのかなって考えてしまいます。

いいも悪いも、あるか分かんないですけど。でも確実に、女の子とかにもてるのは、そのかっこいいほうなんですよ。「おおっ」て来るほうがかっこよくて。だから、女の子の前で、例えば大友さんみたいな、ギュイーンっていうやつをやっても「いやいや、ばかじゃないの」って言われてるんで。僕、高校の1年生なんですけど、どういう感じでやればいいですかね。できるんですかね。

大友 ちょっと待って。意外ともてるよ、ギュイーン(笑)

― 大友さんに、毎回僕に、急に「何か歌って」ってむちゃ振りしたりするんですけど、本当に死にたくなるぐらい、すごいもう考えちゃって。どうすればいいんだろうって思うんですけど。

大友 瞬発力でその場で追い詰められて出てきたもんて、実は面白かったりするんですよ。だからオレ、宿題出さないじゃん。「家で歌詞考えてきて」は言わない。小学校低学年の子は、全体をプロデュースする能力はなかなかないもんだけど、ある年齢以上の子は必ず、多かれ少なかれ全体見てなにかやる。

藤田 その視点は、当たり前に違いますもんね。

大友 そう、そこは本当は違うと思う。あの、前列にいた小学校2年生たちには戻れないし、戻る必要もないし、戻ったとしたらやばい。

藤田 それは本当にやばい。だけど、その中でもここに来てくれてる、高校生の年代の子たちも、すごいいいなと思うのは、すごい気取ってなくて。そのときにすごく今、次、何やろうって考えてるのはいいなと思って。

有馬 全力でね、もう。私も大友さんもそうですけど、藤田さんもそう。ここではもう、全力でみんなやってるんで。

大友 そう。手抜かずにやるしかないんだって。だってオレ、本気で小学校2年の子の出す音に、かなうとは思ってないもん。お世辞とか、かっこ付けて言ってるんじゃなくて。こんな音は本当に出せないなと思うけど、オレはオレで全力でやるしかないから。人ってそれぞれその人の役目も役割もあるし、残念ながら人は成長もするし。中年なったらおなかに肉も付くし、頭もはげるし。いいんだよ、その中でやってけば。だから大丈夫。どうあれ全力でやってるでしょ。

藤田 しかも残念ながら、低学年の子たちのほうが、大人に面白がられるしね。

大友 そう、だって本当に面白いんだよ。

藤田 あいつらは本当にすごい、もう今、一番面白いんだろう。

大友 中高校生かやることって、大して面白がられないからなあ。

藤田 だけど何回も言うけど、すごく純粋に関わってくれてる子たちが関わってますよね、この企画は。

大友 そう、そう思う。だから、なめちゃいけない。こんな風にやれば大人は納得するだろうみたいなことじゃないく、十代は十代の全力さでやればいいんだと思う。オレだってその時期を通過してきているから、その上で言ってることで、だから今の自分で全力でやってみるんでいいと思う。

有馬 今回、小学校から高校生が中心って、すごく幅がある年齢層の参加者の子たちとやってるから。そのときでしか出せない音を、みんなが全力で出してくれてるっていうのは、すごくこの『オーケストラ』の特徴というか。

藤田 そうです。だから年代ごとの多分、悩みとかも。違う感じとかも、うまく出れば面白いですよね。

有馬 毎回ちゃんと見てますよ。みんな一人一人をね。

大友 見てるよ。大人はそんなこと言わないし、あんまり褒めたりしないけど、でも、ちゃんと伝わってるから。

質問 3

― 僕も参加しています。大友さんの音楽の考え方や作り方って、何でも音楽になるよっていう感じじゃないですか、誰かが、例えば歩いてる音ですらも、やろうと思えば音楽になるっていう考え方で。僕も極力そうで、誰かが音出したら、もうこれ音楽だって思えたら、もう音楽だって僕は思うんですよ。大友さんはどういうときが一番、音楽やっていて楽しいと思いますか?

大友 少し難しい話をするね。何でも音楽になるよっていうのは、言い方変えると、何でも音楽にならない可能性だってあるってことなの。例えば君はトランペットだよね。トランペットで曲を吹いたとしても、それが音楽になるかならないかっていうのは、また別の話で。だからそれは、ちゃんと演奏ができたとかできないとかと関係ないんだよ。例えばだけど、ジャズ好きでもなんでもないこれから寝ようと思ってる人の前に突然現れて、その人の耳もとでジャズトランペット吹いてごらん。迷惑なだけじゃない。いくらいい演奏でも、その人にとってはうるさいだけでしょ。でも同じ演奏でもステージでやれば人が感動することだってあるかもしれない。

ていうふうに、全く同じものでも、音楽にならないことだってあるし、なることもある。同じ足音だって音楽になることもあれば、ならないことだってる。だから何でも音楽になるけど、逆に言えば、何だって音楽にならない可能性もあるってなって、オレはいつでも思ってる。どういうことかっていうと、音楽は、音楽だけで成り立つわけじゃないってことなんだよ。それを聞く人とか、状況とか聴く場とか全部込みで、人の心が動く時もあれば、ただうるさいだけのことだってある。でもだからといって、それを全部コントロールしようとすると、そんなの一人の人間では無理だしすごくあざとくなっちゃって、つまらないものになるかもとも思うんだ。全力でなんかやって、もしかしたら何かが音楽になるかもしれない、そんくらいに考えてる。

だから、僕だっていつでも音楽が作れてるわけじゃないし、いつだっていい音楽が生まれるわけじゃなくてね。だけど、そうやってやってく中で、長い年月やってくると、それでも音楽が生まれる瞬間に出会えることがあって、それは必ずしも楽器の音じゃないかもしれないしってことだと思う。僕らはいつもいい条件の場所でやれるわけじゃないから、一歩間違えるとうるさいって思われるようなところでやることだってあって、でも、そんな不利な場所で、音がなった瞬間に場の空気が一変して音楽が生まれる場所にそこがなっていく、そんな瞬間に出会えた時が一番面白いし、嬉しいかな。

藤田 成立しちゃうんですね。そういうときですね。

大友 もちろん、そんなのばっかりやってるわけじゃないよ。普通にミュージシャンたちとやってるときもあって、そのときだってものすごく面白いし楽しいし。でも、より喜びを感じるのは、これで音楽になるのっていうような状況の中で、音楽が生まれるときかな。

有馬 今日は、お二人が最初に出会ったミュージカル『タイムライン』の話から、札幌国際芸術祭の『さっぽろコレクティブ・オーケストラ』の話まで、本当にとってもいいお話を伺えました。ありがとうございました。

大友 どうもありがとうございました。

藤田 ありがとうございました。


※このテキストは2017年6月24日に札幌市役所にて行われた公開対談を元に加筆修正したものです。