SIAFふむふむシリーズ再始動:
オンライントークセッション 美術を耳から目から体験してみよう
SIAFふむふむシリーズは札幌市内の美術館・文化施設とタッグを組んで、展覧会をもっとたのしむプログラムです。
7月23日(土)、今年度の最初のプログラムとなる「オンライントークセッション 美術を耳から目から体験してみよう」を開催しました。
今回のスピーカーは
視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップの 林 建太さん、衛藤 宏章さん
札幌芸術の森美術館の 佐藤 康平さん、山田 のぞみさん
視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップは2012年から活動を開始しているグループです。
全国の美術館や博物館などで目の見える人、見えない人が言葉を介して「みること」を考える鑑賞プログラムを企画運営しています。
札幌芸術の森は自然とアートが融合した、札幌が誇る芸術の拠点。これまでのSIAFでは、芸術の森美術館を中心に、さまざまなアーティストの作品を紹介してきました。
視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップをナビゲーターにお呼びする8月のワークショップでは、自然豊かな屋外で70を超える彫刻作品を楽しむことができる「札幌芸術の森野外美術館」を会場にして開催する予定です。
トークセッションスタート
今回のオンライントークセッションでは、冒頭でSIAF事務局スタッフが札幌国際芸術祭とSIAFふむふむシリーズについてご紹介。
次に、札幌芸術の森 佐藤さんから、芸術の森について紹介していただきました。
札幌芸術の森は、札幌市の南区に位置する約40ヘクタールの敷地の中に、(屋内の)美術館、野外美術館、工房やアートホール、ステージなどを有する複合的な施設です。
ダニ・カラヴァン《隠された庭への道》(部分)
札幌芸術の森ではこれまでも、トークイベントや収蔵庫ツアー、アーティストワークショップ、ライブ制作のほか、札幌市の全小学校5年生が作品を鑑賞する事業の実施など、さまざまなプログラムを実施しています。ちなみに昨年度のSIAFふむふむシリーズは札幌芸術の森美術館でプログラムを実施しました。
続いて、視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ代表の林さんから、これまでの活動の概要についてご紹介。視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップは、現在スタッフ12名(全盲5名、弱視2名、晴眼者5名)で運営されている団体です。「みる」とは何だろうということを考えるプログラムを運営しています。
活動の場所も見る対象もどんどん広がってきており、見る対象は写真、絵画、彫刻、など本当にいろいろ。美術分野にかかわらず建築や空間を眺めるというプログラムや、見えない人とラジオ番組を作ろうというプログラムなど、多岐に渡ったプログラムを実施しています。
どんなワークショップ?
では、林さんたちのワークショップはどのように実施されているのでしょうか。
実はこれは「目の見える人が目の見えない人に、見えているものを説明する」ということを目的としたプログラムではありません。
代表の林さんは「このワークショップの特徴は3つある」と解説。
ひとつ目は「見えること、見えないこと、わからないことを言葉にすること」
2つ目は「目の見えるスタッフと、目の見えないスタッフ(の両方)がナビゲーターになること」
3つ目は「複数で見ること(=1対1をつくらない)」
このワークショップは、障がいの有無にかかわらず、みんなでワイワイ話す場を作るというシンプルなもので、みんなのバラバラな見方や感想をそのまま共有します。
まっすぐモードとぶらぶらモード
さらに林さんから「まっすぐモード」と「ぶらぶらモード」というキーワードが。
「まっすぐモード」は、例えると「目の見えない人に説明しましょう!」というようなモード。
教える人×教わる人という関係性になりやすく、「まっすぐモード」では簡潔に分かりやすく話すことが求められます。
対して「ぶらぶらモード」。「ぶらぶらモード」は例えば雑談やひとり言。
会話のゴールがはっきりしないまま続くような会話のモードです。
会話の参加者同士の関係性はフラットで、話題が行ったり来たり、みんなで迷ったり。思いつきや間違えも気にせず言葉が出てくるような状態。
林さんは
「このどちらも重要だが、環境によってはまっすぐモードばかりになってしまうこともある。」
「美術を見るときはぶらぶらモードがすごく大事だと考えている」
とし、ワークショップでは
「ぶらぶらモードとまっすぐモードをうまく切り替えながら進めていくことを意識している」
と説明してくれました。
「鑑賞者を鑑賞しよう」
次に、全盲のスタッフのひとりである衛藤さんから、美術鑑賞を楽しむようになったきっかけについてお話しいただきました。
衛藤さんが初めて美術鑑賞ツアーに参加したのはまさに「まっすぐモード」の説明ツアー。
ボランティアの方が見えているものを色々説明してくれて、「どうですか?」と聞かれたものの、
「よくわからなかった。どうして僕はわからなかったんだろうか。何で面白いと思えなかったのかとかモヤモヤして・・・。ずっといろいろ考えていた」
と、衛藤さん。
そんな衛藤さんが次に参加したのが、林さんのワークショップ。
「その時は10人くらいでわいわい作品を観て行ったのですが、それがエライ面白かった!自分は美術鑑賞を楽しめるということはわかった」
しかしながら、こう続きます。
「でも、じゃあなぜ楽しいと思えたのかというのは、その時点ではわからなかった。」
そんな衛藤さんにとって転機になったのが瀬戸内国際芸術祭2019。
豊島美術館を訪れた際に、スタッフの方が「何があります」とか「どういう形をしています」という解説(=まっすぐモード!)をしてくれていたのですが、その中でぼそっと他の鑑賞者がどういう姿勢でいるかを話してくれたということ。
「この空間に○人のお客さんがいて、寝転んでいる人がいる、座っている人や壁にもたれている人がいるとか・・・。それがすごく面白く、印象に残って。」
その後も、別の作品の説明を聞いているときに、他のお客さんの「わぁ!」や「おおっ!」といった驚く声や、「(作品を観て)目が痛い!」とかとっさに出てくる言葉。
「それがすごく印象的だった。」
ということでした。
そして、衛藤さんの中で一つ結論が出ます。
「そういう経験を踏んでいく中で、何が面白かったかを後で考えたときに、作品というよりも、作品を観ている人たちがすごく面白い。それに僕は興味を惹かれたと気が付いたんです。」
複数人で作品を「みる」ということ
代表の林さんがこのワークショップで、(まっすぐモードとぶらぶらモード以外に)もうひとつとても大事にしていることは「複数で見る」ということです。
それは「1対1の関係だと役割が固定化しやすいから」とのこと。
1対1だと、どうしても見える人が見えない人に説明しがちになってしまい、見える人は見える人らしく、見えない人は見えない人らしくしなければならなくなることも。
対して、複数になると、会話の矢印が色々なところから出て、色々なところに向かうので、役割に留まらなくても良くなります。
衛藤さんからも
「(話している人に)申し訳ないと思いつつも、ずっと聞き役に徹するのは結構疲れる。ずっと話し手に徹するのもキツイと思う。」
「自分が面白いとか楽しいと言わないと、この場が全て失敗になるという恐れも感じる。」
とコメント。
最後に林さんからは
「会話から離脱して、ちょっと外側から眺めるということがすごく大事なんじゃないかと思う。」
「だからこのワークショップでは複数人で見ることをすごく大事にしている」
と解説していただきました。
芸術の森野外美術館でのワークショップ
林さん、衛藤さんの解説で、ワークショップのイメージが伝わったのではないでしょうか。難しいことを考えずに、とにかく一緒にわいわい作品を鑑賞できそうです。次はぜひ参加者として実践してみたい!という方、人数は限られていますが下記のとおり札幌芸術の森野外美術館でワークショップを開催します。
また、翌日28日の振り返りトークにお申込みいただければ、ワークショップの様子などご覧いただけます。報告会の会場にお越しになれない方には、後日、アーカイブ動画のリンクをお送りしますので、ご興味ある方はぜひお申し込みください。詳細は↓下記をご覧ください。
○ワークショップ 美術を耳から目から体験してみよう
日時:2022年8月27日(土) 10時00分 – 12時30分頃
対象:作品鑑賞に興味がある方、会話をしながら楽しみたい方
人数:6〜8名程度
参加費:無料
詳細・申し込み:https://siaf.jp/event/program/p16852/
*申込開始 8月5日(金)15時00分 / 申込締切 8月18日(水)15時00分
○ゲイモリぶらぶらしてみた報告会 in SCARTS
日程:2022年8月28日(日)
時間:11時00時~12時30分(*10時30分開場)
会場:札幌市民交流プラザ1階 SCARTSコート
人数:80名(先着順・無料)
詳細・申し込み:https://siaf.jp/event/program/p17097/
*申込開始 8月5日(金)15時00分
- 会場参加申込締切 8月24日(水)15時00分
- アーカイブ視聴申込締切8月31日(水)15時00分