刀根康尚氏 ご逝去について
札幌国際芸術祭2017にご参加いただいた刀根康尚氏がご逝去されました。謹んでお悔やみ申し上げます。
刀根氏には、SIAF2017にふたつの作品にてご参加いただきました。
《IL Pleut(雨が降る)》
札幌芸術の森美術館での展覧会「NEW LIFE:リプレイのない展覧会」で発表された、G.アポリネールの「視覚詩」のひとつ「Il Pleut(雨が降る)」の朗読音声を、空から「音滴」として降らせる新作音響インスタレーション。
《AI Deviation ライブ》
複数の刀根のAIが、観客の動きに反応し変化しながら演奏を行い、作者という固定的な主体を解体することを目指したライブパフォーマンス。
準備段階での来札は叶いませんでしたが、それを感じさせないほどの強烈なインパクトを札幌に残してくださいました。
《IL Pleut(雨が降る)》
刀根氏のご参加は、SIAF2017ゲストディレクターの大友良英氏とキュレーターの藪前知子氏の尽力により実現しました。お二人からコメントをいただきましたので、ここにご紹介いたします。
大友良英 氏 コメント
刀根さんとの出会いは2000年前後だったと記憶しています。わたしが自分なりの道を歩むことが出来たのは、刀根さんが切り拓いた道があったからこそです。その刀根さんと出会えたことが何より嬉しかった。
それ以降はNYや東京等で何度か共演をしてきましたが、何より私にとって大きかったのは2017年のSIAFにおいて刀根さんの作品を紹介する機会を作れたことでした。とりわけ未完のAI作品ははっきりとこの先を示していたように思います。
すでに長距離のフライトが厳しい状況だった刀根さんの意思を汲みつつ、札幌に作品をインストールしてくれたキュレーターの藪前知子さん、テクニシャンの伊藤隆之さんをはじめとした多くの人たちの尽力も忘れることは出来ません。
刀根さん、今頃はあの世にしかない方法で新作に取り組んでいることと思います。わたしがその作品に触れるのは、出来ることならもう少し後にしたいですが、刀根さんの意志が詰まった作品やAIはこの世に残されています。そんな作品をどうしていくか、藪前さんや伊藤さんとともに考えて行ければと思っています。
安らかになんて言葉は拒否されそうですが、でも、天女が待っているであろうあの世ですから、きっと楽しんでいるんじゃないかなあ。
刀根さん、ありがとうございました。またいつか!
藪前知子 氏 コメント
札幌国際芸術祭2017で、健康上NYから外に出るのはもう難しい、でもそれを逆手に取ってやりたいことがある、と送ってくださったアイデアは、刀根さんが長年研究されてきた、ご自身の演奏を学習したAI(ニューラルネットワーク)によるコンサートでした。
「パラメディア」の名のもとに、「人は逸脱しなくてはならない」とおっしゃっていた刀根さんは、最後に、人間という存在をも逸脱すること——固定した人間の生、時間と空間の限定を超えることを考えておられました。
一方で、「可能な限り大きな音で」という指示のもとにスピーカーが飛ばないギリギリの爆音で開催された「AI Deviation」は、音の圧に包まれ強烈に自分の身体の存在を感じながら、音楽とは何かを考えさせられるひとときでもありました。
事前のメールで刀根さんは、演奏時間をプログラムしておくから最後は勝手に終わるよ、とおっしゃっていました。が、実際にはその時間になっても爆音は止む気配を見せず、AIはずっと演奏をし続けていました。原因をメールでお尋ねしてもお答えくださいませんでしたから、あれはきっと、刀根さんのイタズラだったんだろうなと思っています。そしてその音がまだずっと、永遠に続いていくような感覚が、刀根さんが旅立たれたと聞いてから一層強くなっています。
最後に、刀根さんによる「AI Deviation」のステイトメントをこちらに引用させていただきます。
AI Deviation は、ヴァーチュアルなYasunao Tone(略称〜V.Y.T)が演奏を行いますが、このV.Y.T.はフィジカルに存在するYasunao Toneを否定すべく出現するのであり、絶対的にヴァーチュアルであることによって、あらゆる現前するYasunao Toneという主体は、V.Y.T.とこのヴェニューにおける観衆との協働によって乗り越えられ、作者という現前の不在が可能であるような自律的で超越論的な分野を創出するのです。
本当にありがとうございました。
心よりご冥福をお祈り申し上げます。