SIAFふむふむシリーズ 手話と日本語で楽しむ鑑賞会「シュワー・シュワー・アワーズ」を開催しました!
イベントレポート
2022.11.04

SIAFふむふむシリーズ 手話と日本語で楽しむ鑑賞会「シュワー・シュワー・アワーズ」を開催しました!

10月15日(土)、16日(日)に「シュワー・シュワー・アワーズ in 北海道立近代美術館」を開催しました。

◯「シュワー・シュワー・アワーズ」とは?
耳の聞こえない方、聞こえにくい方、聞こえる方が一緒に、手話と日本語で作品鑑賞を楽しむワークショップです。今回のファシリテーターでろう者の木下さん、小笠原さんによる「手話マップ」が全国各地で開催しています。北海道・札幌では今回が初めての開催となりました。

 

◯鑑賞した展覧会
今回のシュワー・シュワー・アワーズでは、11月7日(月)まで開催している「【近美コレクション】『北の美のこころ』を携えて」を鑑賞しました。この展覧会では、同館のコレクションの中から、奥岡茂雄氏(元同館学芸副館長)の著書『北の美のこころ』に取り上げられた北海道ゆかりの作家とその作品が紹介されています。

◯当日の流れ
各回とも6~7人の参加者で、約2時間のプログラムを3回実施しました。タイムスケジュールは下記のとおりです。

15分 A. 開始・ガイダンス
45分 B. 展覧会鑑賞
55分 C. 対話(鑑賞してみて感じたこと、思ったことを参加者と共有)

 

◯A. 開始・ガイダンス
まずは参加者のみなさんが2階の映像室に集合し、順番に自己紹介をしました。

手話でお話する人、日本語でお話する人、手話に果敢にチャレンジする人など様々でした。ちなみに、プログラムには手話通訳者が2名おり、手話と日本語、どちらを選択しても滞りなく安心して周囲とコミュニケーションがとれる環境としています。

 

◯B. 展覧会鑑賞

参加者同士が知り合えるワークショップを交えたガイダンスを終えたのち、いよいよ作品鑑賞です。展示室に移動して、個別の鑑賞を始める前に、今回は美術館の解説ボランティアの方に作品解説をしていただきました。
取り上げた作品は、岩橋英遠作の「道産子追憶之巻」という、全長約29メートルにも及ぶ大作絵巻です。

<岩橋英遠 「道産子追憶之巻」 1978-82(昭和53-57) 紙本彩色>

解説ボランティアの方は、手話通訳者が傍で通訳する間(ま)を意識しながら、通常の作品解説時よりもかなりペースを落として、ゆっくりと情感を噛み締めるようにお話している様子が印象的でした。
一方、手話通訳者の方に目を向けてみると、解説ボランティアが言葉で紐解いていく絵画の世界を巧みに手話通訳されていました。解説ボランティアが話す情感豊かな作品の世界観をいかに通訳するか、これはかなりの技術や経験を求められるようでした。

作品解説を聞いた後、参加者は、この後の対話の時間で取り上げる作品を中心に自由に鑑賞しました。

 

◯C. 対話
鑑賞後、手話マップさんの進行で、参加者が感じたことを自由にお話しました。

<片岡球子 「初夏」 1956(昭和31) 紙本彩色>

絵画に描かれた女性の表情を見て「楽しそう」、「幸せそう」という感想を話す人もいれば、反対に「腹を立てているように見える」と話す人もいました。「腹を立てているように見える」とコメントした人は、手話を日常的に使っている方だったのですが、女性の左手が腹を立てていることを表す手話に見えたそうです。今回のイベントならではの感想ですね。

<國松明日香 「北北東の風」 2000(平成12) コルテン鋼>

作品名と見た目から、「逆風」というキーワードを挙げる人が多かったです。作品の中の丸みを帯びたものが、まるで雪やあられを連想させ、周りのとげとげしさも相まって、吹雪の中顔に雪がまともに当たる、あの独特の痛みを感じたといったコメントがありました。確かにこのコメントを受けて、改めて作品を見ると、そういった情景がフラッシュバックするようで、もう少しでやってくる北海道の冬を思い出してしまいました・・・。

<渡会純价 「ON STAGE」 1980(昭和55) エッチング・紙>

オーケストラで演奏されている情景を思わせる作品で、指揮者の近くには赤、ピアノの近くには青、シンバルの近くには黄色がそれぞれ際立つように塗られていて、この色遣いが何を示しているのかというトピックの下、対話が展開されました。指揮者の赤は、エネルギー、力強さ、あるいは怒りと表現される方も中にはいました。

また、シンバルに着目した対話が展開された時、耳の聞こえる人からは、シンバルを叩いた時に出る、大きくて高い音色を作者が黄色で表現しているのではないかといった意見がありました。一方、耳の聞こえない人からは、シンバルの音はわからないけれど、振動は感じることができて、弾けるような明るいイメージが黄色と結びつくと発言されていました。このように楽器の音を知っているか、知らないかで作品に対する印象も変わってきますし、楽器の音を知らないからこそ、先入観を持たずに想像の幅を利かせて、作品を鑑賞することができるのかもしれないなと、実際に現地で参加者のコメントを聞いて感じたところであります。

<神田日勝 「室内風景」 1970(昭和45) 油彩・板>

新聞紙がびっしりと貼られていて、裸足の男性が一人座っている中、男性の周囲には赤ちゃんの人形らしきもの、りんご、魚の骨などが描かれています。この男性は一体何を思ってこの空間に、そしてこのポーズで座っているのでしょうか。

日本が経済成長していて明るい世相の中、一人世の中から取り残されている、孤独、疲れているといったネガティブなコメントが多く寄せられていました。
一方で、男性の目が鋭く、自分の内面を磨くために、あえて厳しい環境下に自分を置いている、自分に嘘をつかずに正直に生きているといったポジティブなコメントもありました。

 

◯プログラムを終えて

撮影:詫間のり子

参加者のみなさんからは「あっという間に終わり、もっと手話で交流をしたいと思いました」、「対話を経ることで、作品への理解が深まり面白かったです。解説も素晴らしかったです」、「手話と日本語で解説してもらうと、世界が広がるし楽しいので、今後も開催してほしい」といった好意的な感想を多くいただき、SIAF事務局としてはホッとしております。

今回のプログラムに限らず、SIAFふむふむシリーズは、SIAF事務局だけでは成立せず、連携先の市内文化芸術施設のみなさまや、関係団体のみなさまのご協力があって、初めてプログラムを実施することができたと率直に感じています。この場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました!

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