「 Art for Future~アートを通して未来を探る~」 ディレクターズトークを開催しました!
イベントレポート
2022.07.11

「 Art for Future~アートを通して未来を探る~」 ディレクターズトークを開催しました!

新型コロナウイルス感染症の影響もあり、実に6年半ぶりの開催となる札幌国際芸術祭2024(SIAF2024)。小川秀明ディレクターとSIAF事務局は、SIAF2024開催に向けて、綿密にミーティングを重ね、準備を進めています。
去る6月26日(日)、小川ディレクターが参加者に直接お話するトークイベントを就任後、初めて開催しました!

撮影:詫間のり子

SIAF2024テーマ 「LAST SNOW(ラスト・スノー)」

SIAF2024のテーマは「LAST SNOW」。
札幌市民にとっては身近すぎる「雪(SNOW)」ですが、なぜあえてこのワードを芸術祭のテーマに採用したのでしょうか。
小川ディレクターは、「雪は気候変動だけでない、さまざまな変化について意味をなしている。その表層として雪に着目した」としたうえで、さまざまな作品事例や気象データなどを交えながら、今回のテーマについて紐解いていきました。

気象庁(札幌管区気象台)のウェブサイトでは、このまま何もアクションを起こさないと、札幌・北海道も気温が上昇し、積雪が減少するという予測データが公開されています。
小川ディレクターはこのデータに触れたうえで、「地球規模の気候変動の影響は、私たちの生活をゆっくりと、しかし確実に変化させている」「札幌では当たり前のように存在しているはずの『雪』の意味や、雪が作り出す風景も、21世紀末には現在とは異なるものになると予測されている」と説明。

さらにイタリアのアーティスト、Giulia Foscriの≪Antarctic Resolution≫を紹介。この作品はアルスエレクトロニカが関わる大きなアートコンペティション"STARTS"で選出されたばかりの作品で、数分に一度「ドーン!!」というものすごい音が鳴るという要素が含まれており、これは南極の氷が解け落ちる音のシミュレーションになっているということです。小川ディレクターはこの作品を見たときの驚きと共に、「アートという力が触媒になって私たちに気づきを与えてくれる」とし、「今まで繋がりあえなかった色々な人たちがアートという具現化されたものを通じて繋がり対話が進む。新しいアートの力がいま世の中に認知されている」と語りました。

 

目指すべきところは 「創造エンジン、文化インフラ、市民参加」

小川ディレクターが普段活動しているリンツ市(オーストリア)は人口20万人程の小さな街(ちなみに札幌市は約197万人)。リンツ市は札幌市と同じ、ユネスコ創造都市ネットワークのメディアアーツ都市に認定されています。
ここで小川ディレクターが所属しているのが『アルスエレクトロニカ』という文化機関です。


credit: Nicolas Ferrando, Lois Lammerhuber

 

リンツ市はアルスエレクトロニカがあることで、もともとの灰色な工業都市(汚染で真っ黒!)といったイメージから、未来志向の街へと大変貌を遂げました。アルスエレクトロニカは43年前の創設当時から「アートとテクノロジーが相互に交錯し合う創造性、芸術表現を探求し、それを社会に還元していく」というミッションを掲げています。

このトークパートでは、アルスエレクトロニカの4部門(フェスティバル、プリ、センター、フューチャーラボ)について丁寧に紹介。プリ・アルスエレクトロニカ(コンテスト部門)でこれまで受賞してきたアート×サイエンスの交錯した作品事例を多数紹介したほか、今年の受賞作である≪分身ロボットカフェDAWN ver.β≫についても解説しました。
※《分身ロボットカフェDAWN ver.β》は文化庁メディア芸術祭でも受賞しています!
また、使われなくなったたばこ工場が、アルスエレクトロニカでの活用によって新たに創造的な場所に生まれ変わった事例等が紹介されました。

今回SIAF2024が目指すビジョンとして、小川ディレクターは

「創造エンジン」・「文化インフラ」・「市民参加」

の3つを掲げています。

創造エンジンは、「芸術祭自体が様々な未来志向が起こる仕掛けとしての創造エンジンになれるか、そういう芸術祭にシフトできるか」。
文化インフラは「蛇口を回すと水が出てくるように、未来が出てくるインフラができるか」。
そして市民参加として「市民や企業が参画できるようなものになっているか。アートのためのアートではなく、社会のためのアートにできるか」。
小川ディレクターは「未来の実験区としての札幌を展開したい」としたうえで、「リンツでは、常にアルスエレクトロニカが市民に未来を提供するというミッションがある。日本や札幌にアート好きの小さなコミュニティーではなく、小さい子供からお年寄りまで、一斉に未来のテーマを議論するプラットフォームがあるか」という問いを投げかけ、「アルスでの活動をもとに、これからのアクションをみなさんと考えていきたい」と語りました。

 

SIAF2024はどうなる・・・!?

そんなSIAF2024はこれからどんな芸術祭になっていくのでしょうか。
詳細は正式発表をお待ちいただきたいと思いますが、トーク中に出てきたディレクターのアイデアを少しだけネタばらし。

「LAST SNOWをテーマに新しい発想を作るオープンコール(公募)を考えている」(?)
「未来の学校としてのSIAFにしたい。この期間中いろんなところに行けば未来に触れられるものにしたい」(??)
「未来のラボとしてのSIAFにしたい。SIAF自体が未来実験を手掛ける発明が生まれる場所にしたい」(!?)
「札幌の街のユニークな場所を使うつもり。今すぐ言いたいが・・・!」(!!)

さてSIAF2024はどんな芸術祭になるのでしょうか。

 

質疑応答

小川ディレクターの意向により、最後は参加者の方との対話の時間をたっぷりと取りました。

冒頭から「SIAFのゴールはどこなのか。指標はあるのか」という鋭いご質問。
これに対して小川ディレクターは「このSIAFが社会的な価値を得て、ストーリーができた瞬間」だとし、「一過性のものではなく継続的なもの。時間をかけて出てくるようなストーリーが描けた場合は、フェスの意味が大きくなる」「例えばSIAFで初めてロボットを見た子供がそこからインスパイアされて、将来ロボットクリエイターになるようなことが起これば良いと思う」と答えました。

さらに今回のキーワードである「アートとテクノロジー」について、「アートとテクノロジーは距離感がある印象。長期的なイノベーションを引き起こすものはないのでは?」というご質問。
それに対しては「日本が生き延びていくためには共生技術、環境技術がコアになってくる。さらに札幌は、暖房を使用する冬が長いため、日本の中でも群を抜いてエネルギー消費が多い。これから地球と共生する技術が構想できる場所だと思う。100年経っても生きているような発想のイノベーションを引き起こすことができる」「アート・テクノロジー・シンビオシス(共生)で狙いどころを決めておくと、新しい仕組みやシステムがどんどん出てくるのではないかと読んでいる」と語りました。

そして今回のご質問で一番多かったのが「なぜ冬開催なのか」というものでした。
これには小川ディレクターも「冬開催ということでオファーを受けた時は考えたし悩んだ」と告白。そのうえで、「冬、札幌、雪を本気で問い直してみる機会になればいい」と回答。「札幌のコアになっている雪を再度検証し、そこから生まれるあたらしい始まりにチャレンジしていく。それを逆手にとった雪ならではの未来の実験区を札幌につくりたい」と語りました。

質疑応答で設けた30分はあっという間に過ぎて、大盛会のうちにトークは終了となりました。

SIAF2024のテーマ「LAST SNOW」はみなさんへの問いです。この問いについてみなさんと一緒に考える芸術祭です。
トークはvol.2以降も予定しておりますので、ぜひご参加いただき、ディレクターとコミュニケーションをしていただければと思います!
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【開催概要】

SIAF2024 ディレクターズトークvol.01
Art for Future 〜アートを通して未来を探る〜

日時    :2022年6月26日(日)14:00-15:30 (*13:30開場)
会場    :札幌文化芸術交流センターSCARTS[SCARTSスタジオ1・2](札幌市中央区北一条西1丁目 札幌市民交流プラザ2階)
スピーカー:小川秀明(札幌国際芸術祭2024ディレクター)

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