SIAF2014

札幌市資料館リノベーションアイデアコンペティション結果発表

札幌国際芸術祭2014では、ゲストディレクター坂本龍一から提案を受けて、歴史的建造物である札幌市資料館を次代のアートや新しい創造性を発信できる場として活用するためのアイデアを国内外から広く募集しておりました。
国内120件、国外11件の合計131点の応募があり、このうち、坂本ゲストディレクターをを含む5名の審査員による厳正な審査の結果、最も優秀な作品を選出いたしました。

>>札幌市資料館リノベーションアイデアコンペティションについて

最優秀作品

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「create creation」/nmstudio(森創太、蜷川結)/ドイツ
>>受賞作品(PDF)

最優秀作品受賞者プロフィール

nmstudio
nmstudio
蜷川結と森創太によって2011年に結成。
現在はドイツと日本を拠点に建築・インテリアの設計を行っている。主な受賞に第1回サンワカンパニーデザインコンペ 最優秀賞、第2回ROOMS空間デザインプレミオ 最優秀賞。changing the face competition : moscow ショートリスト、その他作品に、REGALOショールームなど。

森創太
1984年長野市生まれ。神奈川と埼玉にて育つ。首都大学東京大学院(小林克弘研究室)にて建築を学ぶ。在学中に建築意匠を専攻し、同時に建築コンバージョンの調査に携わる。卒業後に渡独。ベルリンに拠点を移し、設計事務所勤務。

蜷川結
1985年京都市生まれ。幼少期をオランダで過ごす。京都工芸繊維大学(岸和郎研究室)にて建築を学ぶ。在学中にHFT Stuttgartに短期留学、学内設計競技にて受賞。卒業後に再度渡独。ベルリンに拠点を移し、設計事務所勤務。

審査員コメント

総評:坂本 龍一
貴重な歴史的建造物である札幌市資料館は、このままだといずれ解体されてしまう運命にある。何とか今の上品さと威厳を感じさせる佇まいを残しながら、市民への開かれた創造の場として、再生させられないだろうか。これが、私が何度か資料館に足を運ぶうちに得た着想です。そこで札幌国際芸術祭2014のひとつのプロジェクトとして、広く一般の方からアイディアを募ることにしたところ、海外も含めて131もの応募をいただきました。
このコンペティションに関心を寄せ、意欲的なアイディアを提案してくださった多くの方々に、お礼を申し上げます。
ただ、そのなかには単なる個人表現になっているものや、いたずらに空想的で現実性が少ないものも散見しました。
このたび最優秀作品に選定した「create creation」は、大通り公園の西端に位置する 札幌市資料館の空間的特性を生かし、それを一つの文化的中心にしようという構想 、魅力ある今の裏庭の雰囲気を壊さずに創作現場が来訪者に開かれたものにしている点、「自由度の高い、ゆるくつながる空間」かつ「個別性の高いアトリエスペース」でもって、充分な制作環境を与えていることなどを高く評価しました 。
札幌国際芸術祭2014でよりアートに親しんだ札幌市民には、アートが単に外からもたらされるのではなく、足元の札幌からアートが生まれること、つまりは札幌に制作拠点をもつことの意義をより深く理解していただけるのではないでしょうか。情報拠点として、またコロガル公園として、たくさんの方に親しまれた、この魅力ある資料館から制作されたアートが、国境を越え世界に発信される時、はじめて実質を伴った 「創造都市さっぽろ」にふさわしい街になるのではないかと思います。 
雪国札幌の積雪量を考えると、専門的に越えなければいけないハードルもあると思いますが、是非実現してほしいと思います。

講 評:青木 淳
今回のように、そこでの活動つまりソフトを含めた提案を求めるコンペは、日本では滅多にありません。なぜなら、一般市民が預かり知らぬところで、施設のソフトが決まってしまってしまうようなことが横行しているからです。もちろん、これではとても民主的な国家とは言えません。その意味で、今回、今後の活用方法を問うという試みは画期的でした。
現在の札幌での生活を、札幌市資料館を利用して、より豊かにするのはどんな活用法だろうか?そんな視点から、数多くの多様なアイデアが寄せられました。そのことひとつとっても、非常に有意義な機会だったと思います。
札幌市資料館は、建築物として歴史的価値があるというだけでなく、札幌の都市構造のなかできわめて重要な「大通公園」の、しかもそのエンドに置かれています。創造活動の拠点としての活用法を提案した受賞案は、そのソフトの妥当性や現実性において優れていただけでなく、既存の小割り空間の維持しながらも、後背面地下を利用して大空間を挿入し、そのスケール感と構成において、大通公園のエンドにふさわしい提案になっていると考えました。

講 評:坂井 文
札幌市資料館に文化・観光拠点としての新たな価値を付加するアイデアコンペの応募作品には、札幌のどんな文化をどのようなかたちで世界に発信したいのか、という様々な想いと多様な方法が提案されていました。その企画や計画が、資料館のもつ特性と強く結びつきながらより魅力ある施設として活用される案か、議論されました。
歴史的建造物であり、札幌市の象徴的な大通り公園の西端に位置するという資料館の歴史や都市のコンテクストにおける位置づけを再評価しながらコンセプトをまとめ、新たな文化・環境拠点を創造するにあたってその企画・計画から設計までトータルに提案されていた受賞案に力強さを感じる一方で、企画や計画などの部分に魅力ある案が多くありました。企画・計画から求めた今回のアイデアコンペの様々な提案に、札幌の中心部にどんな文化・観光拠点が求められているのか見ることができ、創造都市さっぽろの今後の取組みにとっても貴重な礎であったと感じています。

講 評:涌井 雅之
「札幌資料館リノベーション・アイデアコンペ」は、札幌市民・道民・国内そして国外から131点もの応募を数えた。各々が札幌市の特性と、資料館の歴史的・文化的・景観的価値に着目をし、その価値を損ねることなく、有形物としてのレガシーのみならず、クリエイティブな無形の運動体としてのレガシープランに取り組み、真摯に提案された作品ばかりでした。
 しかしそれだけに札幌の未来像とこの資料館に対する視点には大きな差異がありました。ある応募者は、建築物に着目しその魅力と機能を補強するアイデアを描き、ある案は都市計画的視点を交えつつ美的な有形物としての資料館の価値を可能な限り補強し、新たな運動体、アートなプラットフォームとしての提案がなされるといった多岐で質の高い作品群となりました。それだけに審査は難航しました。その中でも「Create Creation」は大通り公園の札幌市における価値に着目をしつつ、その一連の価値体系の一部として資料館を位置づけ、ランドマークとしての価値をさらに向上させつつ、アートへの市民自らの参画の仕掛けと、ある規模での展示の双方が満たされた空間を巧みに立体化させた作品として秀逸でした。

講 評:武邑光裕
札幌市資料館が、将来の札幌に不可欠な市民の創造拠点としていかに再生可能か?その確かな手応えが、国内外からの応募総数131提案の中にありました。
これまでの行政主導の文化施設計画は、創り手の顔がみえず、設置目標を広く分散化してしまうことから、どうしても箱モノ感が拭えません。その意味で、今回のアイデア・コンペ受賞提案は、提案者の思索のプロセスが表現されていて、ハードとソフト(活用展開)の密な連携、「つくるをつくる」という提案者の観点が明快に伝わるものでした。
誰もが創造活動をあらゆる場所で展開する時代だからこそ、「創造を創造する」拠点とは、一部の文化芸術の担い手が占有するのではなく、すべての人に開かれた場であるべきです。受賞提案は、工房の創造活動が展示活動と一体化することで、市民や観光客との交流促進につながります。半地下の工房は、「創るから見せる」空間となり、市民との創造の連鎖を誘導する透明な構成になっています。大通り公園全体との連続性や新たな観光拠点化を考慮した持続可能な計画としても、本提案の具現性は秀でたものだったと思います。
今後、この提案をいかに実現していくかが、札幌市が担う責任であると拝察します。